お話の続き。

前回のお話

14時58分。②

相変わらず、約束された時間には正確な方だと思う。ただ私の場合は時間を守るということが大切だというわけではなく、その約束された時間、言い換えればその物事に対して消費される時間にどれだけ自分が価値を見出しているのか。そしてその価値に対する自分の認識の確認が時間通りに行動するということなのである。つまりは守れない時間は約束をしない方が賢明であるということだ。
こんなことを考えるのは、今日歩いてきた道のりに人が多かったせいかもしれない。東京という町は、ありとあらゆる人々が交差している。GWということもあり、いつも以上に騒がしい。外部の音をシャットアウトしようとすればするほど、内部の思考に耳を傾けてしまうのは自然なことのようだ。
大通りから路地裏に入り、2,3角を曲がった先にそのビルは建っていた。6Fエレベータを降りて細い通路を左手に進むと、「AC研究事務所」と書かれた表札が掲げられた扉の前に到着した。昨日見たメールの面接会場である。木製のドアを開けて中へと入る。時刻を表す針は、ちょうど15時を指していた。

「こんにちは。15時からの面接を希望された方ですね。いえ、名前はおっしゃっていただかなくても結構です。今回のプログラムにおいて、個人の名前というのは我々にとって重要ではありません。大事なことはあなたが一人の人間であるという事実です。なのでプライベートな情報や履歴といったものは一切残りませんのでご安心ください。」
そう言い放った受付の女性は20代後半だろうか。黒髪のロングヘアーに細淵の長方形方の眼鏡が似合う、いわゆる整った顔立ちだ。表情の変化は今のところ見受けられない。
「では面接を開始するにあたり担当の者が参りますので、こちらの部屋でお待ちください。」

通された部屋は正方形で大人の人間が二人、中に入るには申し分のない広さだ。壁、天井、床は真っ白で部屋の中央に置かれた丸いテーブルとイスは真っ黒である。決して居心地の良い空間、インテリアであるとは言えない。白衣を身にまとった男性が入ってくる。30代前半であろうか、細淵の銀色の眼鏡をかけている。身長は日本人の平均より少し高く、体系はややがっちりとしている。全体的には好青年といった印象だ。私をしばらく見つめ男は言う。
「では面接を開始しますので、はいかいいえで答えてください。」
そして私はいくつかの質問を受けた。それはとても簡単なもので例えば、好きな食べ物はあるか、音楽を心地が良いと感じることはあるか、きれいな景色を見たことはあるか、気分が悪くなる匂いはあるか、などである。聞かれた質問に対する答えのすべてが”はい”で、それは私位の年齢の普通の人であればおそらく同じ結果になるであろうといったものであった。
「では最後の質問です。これはあなた自身の言葉で答えてください。あなたは自分とそれ以外の人間との違いをどのように認識していますか?または自分が同じ人間として違いがないとするならば、なぜそういう判断を下すことができますか?」
いきなりくらったみぞおちに苦しむように、私は黙って考え込んでしまった。
「あー、えー。それは違うと思います。自分は他の人とまず顔の作り、いわゆる容姿が違うし、考え方も完全に同じであるという人に出会ったことがありません。なので、そういった点から私は他者と自分自身を違う人間だなと認識しています。」

と、こんな感じでよかったのだろうか。白衣の男には、また参加していただく際にはこちらから連絡をさせていただきます。と言われ私は研究事務所を後にした。いま考えればあの質問は何だったのだろうかというものばかりだし、最後の質問に至ってはその意図が全く見えてこない。ただの暇つぶしのいたずらだったのだろうかとさえ思えてくる。
まあしかし、他者と違うことは当たり前であるし、それは周りを見渡せば一目瞭然である。認識するも何も、改めて考えるほどのことでもあるまい。私は冷蔵庫から500mlアルミ缶を取り出し、口を開け中のアルコールを摂取する。そしてPCを開く。
いつもの起動画面。メールのアナウンス。

・件名 AC研究事務所
・本文 本日はご足労いただき、真にありがとうございました。
今回のプログラムの人員としてあなたが選出されました。
明日の朝7:00に自宅へと伺いますので、ご支度の方をよろしくお願い致します。
ご協力を感謝します。

AC研究事務所 研究員一同

つづく。

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